アブラナ科植物の自家不和合性では100以上のSハプロタイプが存在すると言われているが、その中には2つのハプロタイプ間で優劣の関係が生じる組み合わせが複数存在する。筆者はこれまでに花粉の優劣性は劣性を示すSハプロタイプの花粉側S決定因子SP11の発現が優性を示すSハプロタイプとのヘテロ体で抑制されること、その際、劣性SP11遺伝子の5'上流域が葯タペート組織特異的にメチル化レベルが高くなることを明らかにしてきた。今回、筆者は劣性ハプロタイプ特異的、葯タペート組織特異的なDNAメチル化が実際に転写抑制に働いているかどうかを詳細に調べた。まず優性/劣性ヘテロ株であるS_<52>S_<60>株(S_<52>>S_<60>)の開花10日前から開花当日までの葯を8つのステージに分類し、それぞれの葯からタペート組織のゲノムDNAを抽出し、bisulfite法を用いてS_<60>-SP11ゲノムDNAのメチル化レベルを調べた。その結果、開花10日前に相当するステージ1ではメチル化が見られなかったが、開花8〜9日前にあたるステージ2以降の葯タペート組織ではS_<60>-SP115'上流域の顕著なDNAメチル化が見られた。S_<60>-SP11の発現はステージ3から始まるのでDNAメチル化は劣性SP11の発現時期より以前に起こっていることになる。またGUSレポーター遺伝子を用いてS_<60>-SP11プロモーターの転写調節領域を探索したところ、優性/劣性ヘテロ体で見られる高メチル化部位はcis-elementを含む転写に必須の領域であることが分かった。以上の結果から劣性ハプロタイプ特異的、葯タペート組織特異的なDNAメチル化が、劣性SP11の転写抑制に重要な役割を果たしていると考えられる。
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