研究概要 |
【目的】 脊椎動物が体液の恒常性を維持するメカニズムを分子レベルで解明するため,メフグ(Takifugu obscurus)を実験動物として用いて解析を行った。メフグは,体液に比べ塩濃度が約3倍の海水と,塩濃度が1/100以下である淡水の両方の環境水に完全に適応して棲息できる。従って海水・淡水適応時に,体液組成の恒常性維持を司る遺伝子が切り替わるため,遺伝子発現の変化を指標にして,適応に重要な遺伝子を網羅的に同定することができる。さらにメフグはトラフグ(Takifugu rubripes)と非常に近縁でゲノム配列も99%似ていることから,トラフグゲノム資源を有効に活用した解析ができる点で有利である。 【結果】 体液組成の恒常性維持に関わる遺伝子の網羅的スクリーニング:淡水と海水に適応したメフグのエラ,腎臓,腸,脳のRNAによるフグゲノムのマクロアレイ解析とサブトラクションライブラリーのスクリーニングを現在進行中である。 体液組成の恒常性維持に関わるイオン輪送体の同定:トラフグゲノムデータベースを用いたコンピューターの解析により,イオンなどの輸送体遺伝子のファミリーを網羅的に同定することが可能となった。現在,尿素やNa^+, H^+, Cl, HCO3^-, SO4^<2->などの分子を輸送する遺伝子ファミリーについて,淡水・海水で発現量が変化する遺伝子を同定した。特に新規尿素輸送体(UT-C)を発見できたのは大きな成果である(Am.J Physiol.2005)。現在,他の遺伝子の機能解析を進行中である。 体液組成の恒常性維持に関わるホルモンとその受容体の同定:近年存在が明らかになったadrenomedullinファミリーの受容体遺伝子をゲノムデータベースから同定し,単離した。哺乳動物では未だ見つかっていないAM-2高親和性受容体の発見につながった。
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