昨年度より引き続き、ATに富んだパリンドローム配列(PATRR)を介した転座を培養細胞中で再現する実験を行っている.転座には1)切断、2)結合の二つの反応が必要で、これらには非相同末端結合(NHEJ)と呼ばれる既知のDNA修復機構が関わっていることが推察された。そこでNHEJに関与する遺伝子を破壊した細胞株が豊富なニワトリB細胞由来DT40を用い、プラスミドにPATRRを組み込んだべクターを作製して導入してみた。その結果、DT40細胞では野生型、その他のNHEJ欠損株を含みPATRRの部位ではほとんど切断されなかった。しかしながらそこにSNM1C遺伝子を強制発現させた細胞株ではPATRRの中心付近、すなわちへアピン構造の先端部位で切断され、その後お互い二つの分子が繋ぎ直されたものがPCRにて検出された。この分子はヒトのt(11;22)に非常に類似したものであったことから、この系でヒトの転座を模倣することができたと判断した。この結果から、ヒトの転座を引き起こすにはへアピンを切断する酵素が必要であることが推察された。ヒトの転座は培養細胞では検出されないが、これらの酵素を強制発現させることで転座を誘発することが出来る可能性が考えられ、制御可能な安全な遺伝子導入の可能性を示唆した。以上の成果は第28回日本分子生物学会年会にて発表し、また現在論文を執筆中である。なお昨年度の成果は論文としてすでに発表してある。
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