研究概要 |
多くのタンパク質はその機能を発揮するために「適切なアミノ酸」が「適切な時期」に「適切な翻訳後修飾を受けること」が必要である。代表的な翻訳後修飾として「リン酸化」や「糖鎖修飾」が知られている。リン酸化のシグナル伝達機構については詳細に検討されている一方で、糖鎖修飾は小胞体やゴルジ体における糖鎖付加後のトレミングやプロセシングの各段階は詳細に検討されているものの、糖鎖修飾されたタンパク質の機能変化については不明な点が多く残されている。また、がん細胞で過剰発現または発現低下しているタンパク質の中で糖鎖修飾を受けるものが多数知られているが、それら分子に糖鎖が付加されるとどのような活性変化が誘導されるかは不明である。 上記背景から、がん細胞の転移・浸潤に関与しているマトリックスメタロプロテアーゼ阻害因子、RECKの糖鎖修飾に着目した。RECKの1次配列からは5ヶ所の糖鎖修飾が予想されたが、変異体やグリコシダーゼを用いた解析から、RECKは86,200,297,352の4箇所のアスパラギン残基が糖鎖修飾されていることが分かった。いずれの糖鎖修飾も、GPIアンカーとして細胞外膜への局在には必要なかった。一方、MMP-9分泌抑制能にはアスパラギン297の糖鎖修飾が、またMMP-2の活性化抑制にはアスパラギン352の糖鎖修飾が必要であった。さらに、RECK発現細胞ではがん細胞の浸潤能が低下するが、糖鎖修飾が欠損している細胞を発現させるとがん細胞の浸潤能は低下しなかった。 これらの結果より、RECKはその発現だけでなく、糖鎖修飾によってもMMP-9抑制能、MMP-2活性化抑制能、さらにがん細胞浸潤抑制能が調節されていることが明らかになった。
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