研究概要 |
昨年の結果より,吉野川河口干潟には,全国的にも稀なヒロクチカノコガイの高密度な個体群が存在することが明らかになった.ヒロクチカノコガイは,全国のレッドデータブックに取り上げられている500種あまりの貝類のなかでも,もっとも高頻度に掲載されている種である.すなわち,この種は,いまもっとも注目を集めている絶滅に瀕する貝類である.よって,本年度は,ヒロクチカノコガイの詳しい生態解明を中心に,フトヘナタリ(絶滅危惧種)も同時にモニタリングしながら,吉野川河口干潟の干潟貝類の生活史特性をあきらかにした.方法としては,月1回の個体群モニタリングにより,成長・産卵などの生活史特性を詳しく調査した.さらに,標識再捕をおこない,成長のパターンを個別に追跡した.これにより,継続的に個体群がモニタリングされ,架橋工事による影響を観察した.現状では工事の影響による個体数の変化は見られなかった.さらに,野外ケージを用いた成長実験を行い,ヨシ原の落ち葉がヒロクチカノコガイの成長に与える影響を検証した.その結果ヨシの枯れ葉が存在することでヒロクチカノコの成長があきらかに促進された.また,安定同位対比を用いてヒロクチカノコの餌資源を推定したところ,海洋由来有機物(おもに植物プランクトン)であることが明らかになった.よって,ヒロクチカノコは,ヨシの枯れ葉を「お皿」にして,そこに付着する海洋起源の有機物を摂餌しているといえる. なお,この研究結果は2006/03/27の第53回日本生態学会(新潟)にて発表を行った.
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