今年度はボストン市ノースドーチェスターにおける昨年度からのデータ収集を続ける一方、このコミュニティにおける地域再生の試みをアメリカ全体の政治・経済・文化的潮流のなかに位置づけるべく、他地域の事例についても調査を進めた。特に、ゲートと警備員と防犯カメラに守られた要塞町(カリフォルニア州)、信仰と近代の調和を試みているフッター派キリスト教徒の生活共同体(ニューヨーク州)、「ふつうのアメリカ」の典型とされる中西部のスモールタウン(インディアナ州)、寡占化する食肉産業のなか有機酪農の拡大を目指す生産者の協同組合(モンタナ州)、急成長を遂げている福音派キリスト教の巨大教会(アリゾナ州)などを訪問する機会が持てたことの意義は大きく、本調査を分析する際のキータームである「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の概念の有効性ならび限界に関する知見が得られた。特に、パットナムの分析では、総じて、インナーシティのソーシャル・キャピタルが低く評価されがちで、フィールドワークを重んじる文化人類学者や社会学者からは疑問点も多いが、ノースドーチェスターのケースはパットナムの理論への建設的批判となり得ると思われる。また、協調のキャピタルが高いということは、裏を返すと、それだけ同調への圧力が高く、個人の自由や創造性を抑えてしまうこともあり得るし、また、排他性を高めるなど、否定的な方向への協調になってしまうこともあるが、こうした点について今後の分析上有益なデータも得られた。
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