研究概要 |
スピリチュアリティとは、人生の困難や挫折などの出来事により実存の危機に直面したときに、自己の拠り所を究極的な、あるいは身近な他者とのつながりの感覚や神秘的な体験に求めたりすることで、自己アイデンティティを再構成し、人生を肯定的に編みなおしていく作業のことである。スピリチュアルケアとは、他者がそのような作業を行うことを何らかの形で援助することを指す。この研究の目的は、中絶の是非をめぐる議論(Pro-life, Pro-choice)そのものからは一旦離れ、当事者の声から中絶後の女性のスピリチュアルケアを考えることである。 中絶当事者の経験に新たな側面から接近するため、匿名でのコンタクトが可能なインターネットを利用して水子供養の調査を行った。水子供養は、中絶後の女性に罪責感が生ずることを前提としている等、ジェンダーや女性学の視点からいえば批判すべき点もあるが、スティグマを付与され、社会的に孤立した中絶後の女性に対するケアの場を、宗教の立場から提供しようとしていると評価できる側面もある。 ネット上で水子供養を提供する寺院のホームページを通して、中絶当事者へのアンケート及びインタヴュー調査を行い、その一部を「水子供養に見る現代女性のスピリチュアリティ」(日本社会学会)、「中絶を経験した女性のスピリチュアリティ」(日本看護科学学会)として学会報告を行った。ネット上で得た水子供養を行う当事者女性の声から浮かびあがったのは、中絶後の女性は、罪責感などのいわゆる負の感情を経験しているというだけではなく、そうした痛みをもたらしうる経験を通して、積極的に自己成長を遂げ、人生に対する洞察を深めようとしているということであった。
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