本年度は、研究一年目にあたるため、合衆国とカナダにおける同性愛者権利運動の概略と、運動内部における「解放」か「異性愛者との同等の権利」を巡る論争史に関する文献資料を収集した。さらに、2004年の一年を通じてさまざまに変容しつつある両国の同性結婚をめぐる議論を、おもに新聞資料にもとづき通観することを試みた。また、2004年合衆国大統領選挙において同時に争われた州憲法に同性婚禁止の修正条項を含めるかいなかの住民投票にかかわる新聞報道と、本投票結果(住民投票があった11州すべてにおいて修正条項可決)をうけて、同性愛者権利運動の運動方針にどのような変化が見られたかを、主にインターネット上のホームページを通じて明らかにすることを試みた。また、カナダの場合では、約半数の州ですでに同性結婚が認められることを受け、連邦レヴェルで「婚姻」の定義が同性同士の結婚を含むものへと改変されようとしている(2005年度中にも決定される予定)。両国のこうした現在進行形中の変化を見るにつけ、来年度の研究は、両国における宗教と政治との関係について焦点を当てなければならないことが、いっそう明らかとなった。 理論部分の研究に関しては、「家族」の問題が政治的に焦点化されることで、逆に明らかにされる理想的な政治的「主体」に関する批判を加え、また、「依存的な相互関係」を中心とした家庭構成員のあいだの「倫理」と公的空間がいかなる関係にあるのか・あるべきなのかを模索しようと試みた。その結果、精神分析理論をも取り入れながら、「依存的な相互関係」と「承認の政治」との関係、解放と同等の権利獲得の理論的相違点などの問題に取り組まなければならないことが明らかになった。
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