本年度は、倫理規範を環境適応の観点から考察するために、理論的研究の準備と並んで、幅広い環境構成の実例を調査した。環境デザインの分野は、室内空間や建築、都市計画や環境教育、自然環境保全や途上国援助など多岐にわたる。ホンジュラスにおいて、政府機関の国際協力事業団とNGOのAMDAホンジュラス支部を訪問し、関係者へのインタビューや援助現場の実際の見学を通じて、国際援助の実際を調査したほか、ドイツ・フランクフルト市において、現地のデザイン大学を訪問したほか、1920年代の労働者向けの公共住宅建築の実際を見学し、設計者であるフェルディナンド・クラマーの近親者等の関係者にインタビューを行った。それと並んで、九州大学芸術工学研究院でアートやデザインを専門的に実践する研究者に幅広くインタビューを行い、哲学的・倫理学的観点からデザインを深く掘り下げて検討し、その成果を『アートデザインクロッシング』という書籍のかたちにまとめ、九州大学出版会より公刊した。また理論的研究としては、最終的な研究成果となる著作の原稿検討会を環境経済学と環境人類学の専門家たちと数回にわたって行った。環境史の観点から、狩猟採集経済や封建的農業経済の適応形式について研究したほか、自由主義や功利主義といった近代的な価値理念の成立とその効果、その限界について、関連する分野の研究者と討議しつつ研究を深めることができた。またこれと並んで、デザインにかかわる哲学的論理の基礎研究としてベンヤミンの機械論を学会誌(西日本哲学年報)に発表したほか、倫理に関する基礎理論の研究としてレヴィナスの他者論の検討を行い、その成果を関連する学会(日本現象学会)で発表した。自然支配の論理に関するアドルノの立場に関して論文を準備中である。
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