研究概要 |
本研究は,ヤジュルヴェーダのマントラ(ヤジュス:個々の行作に伴って唱える祭詞)とこれに対するブラーフマナ(マントラの解釈,意義付けと神学議論)の翻訳・精査を通じ,古代インドの祭式文献及び祭式の展開を最古層から解明する事を目的とする。特に,穀物祭の基本型である新月祭・満月祭の準備儀礼の中で「搾乳と酸乳製造」を巡る記述を取り上げる。これに先立つ「放牧」及び「敷き草刈り」の章を扱った博士論文と併せて「穀物祭の本祭前日に行われる準備儀礼の研究」を纏め上げる。 本研究の柱となる「総論」「テキスト」「翻訳」「各論」の中,初年度は「テキスト」「翻訳」の全部と「各論」の一部を手がけた。即ち,下記の各ヤジュルヴェーダサンヒター及びブラーフマナの「搾乳と酸乳製造」の章についての,マントラ(祭詞)集成とブラーフマナ(マントラの解釈,神学議論)のローマナイズドテキスト作成と翻訳・注解である:マイトラーヤニーサンヒターI 1,3及びIV 1,3;カタサンヒターI 3及びXXXI 2;タイッティリーヤサンヒターI 1,3及びタイッティリーヤブラーフマナIII 2,3;ヴァージャサネーイサンヒターI 2-4及びシャタパタブラーフマナI 7,1,9-21。 博士論文で扱った2章とは異なり,本章では個々のマントラの内容,順序等について,各学派の間に大きな差異が多数見られる。従って,前2章のように,「搾乳と酸乳製造」の章全体を「搾乳の際に唱えるマントラ」,「牝牛に対して唱えるマントラ」等の内容に従って4〜5節に分けること自体は可能であるが,各学派の記述を対照させる際には,細心の注意を払う必要がある。従って「各論」の部分は当初の予定よりも量的に僅かな部分しか終えられてはいない。しかし,その結果として,次年度,残りの部分を扱う上でも大きな指針となる諸事項を確認し得た。即ち,各学派におけるマントラと式次第各段階の意義,祭式とそれを取り巻く環境の変遷,学派の展開史などである。
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