研究概要 |
本年度は,昨年度までに行なった1人称接続法の形と機能についての研究成果を,単著の形で出版する機会を得た(印刷中)。これと同時に,接続法の全用例のうち3人称の用例の語形確認及び用例の検討に取りかかった。3人称接続法は,リグヴェーダにおける全接続法語形の実に6割以上を占めており,接続法研究の中核的資料とも言える。用例の多くについて,1人称の時と同様,語根,語幹,語尾,態,数,アスペクト,語彙的意味,文タイプなどを分けて考察を進めた。人称語尾に関しての最大の問題は,一部の2人称接続法と同様に,3人称接続法単数・複数能動態,及び複数中動態において,第一/第二人称語尾が同様に用いられることである。一般にこの二つの機能的差異を証明するのは難しいとされているが,個々の用例は様々な可能性を示唆するため,最終的にそれらを総合して再吟味する機会を持つべきと思われる。また文タイプや文脈に関して幅広い資料を有する3人称接続法は,接続法自体の機能にとって,また接続法と他の文法範疇との関わりについても,暫定的ではあるが本質的な問題を提起している。まだ全用例を検討するには至っておらず,現段階では全体として何らかの結論を導き出すことは難しいが,少なくとも3人称接続法には,1人称の場合とは全く性格の異なる固有の問題と,いずれの人称にも(恐らく接続法組織全体に)関係する問題が含まれていることが伺える。その一方で,3人称の用例の検討によって,1人称接続法の話し手=主語という特殊性を,昨年度より更に幅広い視野で考察する機会にもなった。人称の別による同様の考察は,聞き手=主語である2人称接続法を扱う際にも,大きな意味を持つものと期待される。 一方,予定していた接続法の用例に関するカード作成とその電子化も平行して行なった。その過程で,特種文字や検索機能の活用などに関して様々な問題が浮かび上がったが,それらについては,来年度以降更に修正・改良してゆく予定である。
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