研究概要 |
本年度はまず,昨年度出版したリグヴェーダにおける1人称接続法の研究を広く海外の研究者や学界に発信すべく,その形態論の部分を若干の修正・補足とともに英訳し,大阪大学の『待兼山論叢』第39号に発表した(別紙参照)。機能の議論は,将来2・3人称をも考慮した総合的な研究(英語)の中で扱う予定である。次に,前年度に引き続き3人称の用例の吟味を進めた。用例の膨大さから,今年度も全用例を検証するには至らなかったものの,大小様々の視点・課題が新たに明らかとなった。主なものとして,語りの時制が過去である時に使われる接続法をどう理解するかという問題がある。これについては,既にK.HOFFMANN Der Injunktive im Veda(1967)の中で何度か触れられてはいるが,話法や人称といったより広い問題とも密接に関係するため,改めて議論し直すと同時に用例の収集を行なう必要がある。また,文の中で誰が誰に話し掛けているのか,そしてそれがより大きな文脈の中でどのように変化していくのか(・いかないのか)といった談話上の側面も,これまで余り顧みられることがなかったが,接続法の統語機能を考察・分類する際にはしばしば決定的な役割を持つため,今後更に検討すべき調査項目である。これは特に,聞き手が目の前に存在する(・存在しない)時の命令法と接続法との使い分けを理解するためには不可欠の視点である。命令法の機能については最近出版されたD.BAUM The Imperative in the Rigveda(2006)が興味深い考察を行なっているため(ただし接続法との関係は殆ど触れられていない),接続法との機能的相違についてもより進んだ研究が期待できそうである。 一方,前年度と同様,語根,語幹,語尾,態,数,アスペクト,語彙的意味,文のタイプなど,あらゆる角度から個々の用例を記述し,データ化する作業を行なった。接続法の理解について新たな視点が加わる度にフォーマットを軌道修正するため進行は遅いが,既に膨大なデータが蓄積されており,検索,統計などの活用法についても引き続き検討中である。将来的にはデータをWeb公開することも視野に入れている。
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