研究目的の第一段階は、エディット・シュタインの列聖をめぐってカトリックとユダヤ教の間で引き起こされた議論の経緯と成果を明らかにすることであり、平成16年度は第一段階を重点的に研究した。教皇庁及び各国司教団の関連する公文書に加え、欧米やイスラエルの関連学術誌の収集や翻訳、メディアの反響の調査をした。そして、エディット・シュタイン列聖をめぐって引き起こされたユダヤ人社会の反響、それに対するカトリック側の対応や応答をより多角的に捉え、全体像を把握した。 現代のユダヤ人のアイデンティティの多様性やユダヤ教宗派の多様性の起源を、「近代」においてユダヤ人共同体が遭遇した解放とアイデンティティの多様化の歴史的状況に見いだし、エディット・シュタイン列聖問題を、現代固有のユダヤ人間題の一形態として位置付けた。また、宗教間対話に比較的積極的な姿勢をもつアメリカ合衆国改革派ラビの諸見解を、宗派とキリスト教との関係史を含め、重点的に検討した。さらにアメリカ合衆国でいくつかの調査を行った。ユダヤ教とカトリックの相互理解を目的に活動する人物、カルメル会研究所のジョン・サリバン博士、ボストン大学キリスト教ユダヤ教相互理解センター、エディット・シュタインの姪に当たるスザンヌ・バッツドルフ氏を訪問し、聞き取り調査と資料収集を行った。 なお、本年度の研究成果は、学術論文2本、学会発表2本(うち1本は国際会議)で公表された。
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