研究概要 |
本研究課題では、古典主義的な平面と外形・輪郭を維持しながら、その外壁面をゴシック装飾で覆うという英国国会議事堂の「特異なゴシック」に注目し、「なぜ19世紀の英国においてゴシック様式が『英国性』の表現として認知され得たのか」という、従来十分に検討されてきたとは言えない問題を掘り下げている。 平成16年度は、特に本研究課題を遂行するうえで必要不可欠な一次資料、視覚資料を、(1)英国国会議事堂の設計競技の条件としての「英国性」の表現について、(2)英国国会議事堂の代表的な設計競技案のゴシック・デザインについて、(3)ゴシック主義者ピュージンが英国国会議事堂の実現に果した実際の役割について、の三つの観点に注目しながら収集、整理した。具体的には、大英図書館貴重書部門、国立公文書館、英国国会議事堂公文書室、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館、等に所蔵されている英国国会議事堂およびA・W・N・ピュージン関連の一次資料の収集を行うとともに、それらの検討・考察を進めた。また、18,19、20世紀英国におけるゴシック様式の建築事例の図版を作成するとともに、それとの比較対象としてヨーロッパ大陸におけるゴシック建築事例に注目し、フランスのゴシック・リヴァイヴァルに関する資料収集、図版作成も並行して行った。 平成16年度中に本研究課題において得られた知見は、平成17年11月に台湾、國立雲林科技大學を会場に開催される国際デザイン会議(2005IDC)において発表する予定(第一次審査通過済み)である。この発表では、英国国会議事堂に具現したゴシック・リヴァイヴァルを古典主義VSゴシックの19世紀英国における「様式戦争」下にあって中道的な傾向と位置付け、多様な様式を「囚われることのない自由の精神」に基づいて混合、併用する建築芸術における「英国性」の所産として論証する。
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