2005年度に引き続き、本年度も北京と天津の実地調査を行った。調査は2005年12月11日から2006年1月3日まで集中的に行った。調査の実施については、景栄慶氏、王鳴仲氏、劉曽復氏、張宝華氏、蒋連啓氏への取材を重点的に行った。具体的な取材内容は、景栄慶氏より1930年代に創立された中国初の国立演劇学校である中華戯曲学校の演劇教育様子、尚小雲によって創立された栄春社の教育様子について詳しく語り、栄春社での修行期において範宝亭に伝授された「通天犀」を実演した。王鳴仲氏は楊小楼派の昆曲「夜奔」の演技について詳しい説明され、七段の昆曲及び全段の演技を実演した。劉曽復氏は嘗て程長庚より汪桂芬に伝わり、王鳳卿に継承された「文昭関」の唄を実演した。銭宝森に師事した張宝華氏は「金沙灘」の"下場"、「艶陽楼」の"下場"、「挑滑車」の"閙帳"を実演した。蒋連啓氏による歴代名優の着付けに関する工夫、氏の従祖父の侯喜瑞、祖父の蒋少奎の演技について詳しく紹介された。その他に、羅喜均氏による栄春社での修行期間の様子、張春華氏による葉盛章の芸、董文華氏による天津劇壇の様子などについても取材が出来た。 しかし、今年度の取材対象となる名優茹元俊が10月に急死し、賀永華氏、侯少奎氏の健康状態が悪くなったため、その取材を断念した。 調査成果としては、<I民国期の京劇俳優養成>に関しては清代に創立された三慶班の芸術的手法が本日の京劇舞台芸における本流たるものと判明し、<II民国期の京劇興行法>に関しては嘗ての国営演劇学校、旧式京劇教育機関の科班、劇団である"社"の運営法及び興行法について貴重な情報を得た。そして最重要な部分である<III舞台芸>に関しては名優達の協力を得て、失われつつある数々の名人芸を記録した。
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