研究概要 |
本年度は、研究代表者の研究機関異動に伴い、設備品の関係から異動による影響の少ない現代文学を中心とする方向に研究の重点を置いた。 まず、鼎書房より刊行予定の叢書「現代女性作家」シリーズの松浦理英子の巻に「『松浦さんはレズビアンなんですか?』-松浦理英子『優しい去勢のために』と同性愛-」を寄稿した。これは、セクシャル・マイノリティ当事者でなければ、なかなか入手することが難しい同性愛関連雑誌や、ミニコミ誌に関する情報提供を受けて、そこに登場する松浦の発言から、表の文芸誌には現れない松浦の作家像を明らかにしたものである。 その他平行して進めていた研究の成果は、2005年5月28、29日の日本近代文学会春季大会におけるシンポジウム「文化史としての<現代文学>」におけるパネラー発表「なぜ、性とサブカルチャーか?」、および2005年6月11、12日の日本文芸研究会大会での研究発表「笑う『快楽主義の哲学』-森奈津子とセクシャル・マイノリティ-」で、口頭発表する予定である。前者は、現代文学おいて、性とサブカルチャーの視点から、現在進行形で書かれている文学の最先端の状況を解明することを目指し、その際、セクシャルマイノリティにおける「トランス」の概念が鍵であることが明らかになるであろう。後者は、より具体的に、バイセクシャルというセクシャルマイノリティ当事者の作家である森奈津子を取り上げる。セクシャルマイノリティ当事者によって、セクシャルマイノリティを題材とする差別的な「笑い」への態度は異なる。文学者ではない活動家の事例と、森の場合を比較対照する,ことによって、文学的表現における性と笑いの関係を理解するためには、活動家における差別的「笑い」への対処の仕方とは異なった視点からの分析が必要であることが明らかになるであろう。
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