今年度は、『冒険世界』ならびに『武侠世界』を中心に、大衆青少年雑誌における不良少年像の検証を試みた。当初の計画では、「探偵小説」などの創作を中心に検討を加える予定であったが、不良少年問題が直截に問われているトピックとして「野球害毒論争」が見出されたため、計画の変更を行った。「野球害毒論争」を事例として取り上げたことに伴い、両誌以外の新聞・雑誌等のメディアと比較検討することを研究計画に新たに加えた。上記の手続き上の変更を経て検討を加えた結果、次のような知見を得ることができた。 1.両誌における青少年類型が不良少年問題を前提に構築されていることが判明した。 (1)両誌の青少年類型の一つであるバンカラ学生については、硬派不良少年問題に抵触するような稚児争い等の男色問題を批判する傾向が認められた。 (2)両誌の青少年類型の一つであるハイカラ学生については、軟派不良少年予備軍として積極的に排除する傾向が認めちれた。 2.両誌以外のメディアとの比較検討により、両誌に固有の不良少年像が判明した。 (1)硬派不良少年予備軍として一般に語られるバンカラ学生については、言説操作を加えられ、望ましい少国民として語り直されている。 (2)軟派不良少年予備軍として一般に語られるハイカラ学生については、従来のパターンを踏襲している。しかしながら、私立学生、とりわけ早稲田大学の学生に対する世間のハイカラ学生批判については、反論を試みており、学歴社会における官立と私立の対立関係の影響が顕著に認められた。
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