平成17年度は、『古事記伝』における『古事記』解釈の位相を定位するための基準点として、『古事記』そのものにおけるテクスト理解の徹底をはかる作業を行った。 範囲としては、とくに『古事記』上巻部分を占める神話の理解に重点を置いた。 内容的には、天皇による地上統治の正統性を物語るテクストとしての『古事記』において、天上の祖神としてのアマテラス神と、地上における天皇の祖先としてのホノニニギをつなぐ存在としてのオシホミミの存在に着目し、その出生の文脈と、『古事記』全体におけるその意義について、従来統一されていなかった先行研究の見解を整理し、テクストの書かれ方に即した視点から、新たな見解を提起した。 この過程で、アマテラス・スサノヲ二神のウケヒというかたちで行われたオシホミミの出生に関し、『古事記伝』における理解を参照した。オシホミミを生んだ主体がアマテラスであるのか、スサノヲであるのか、『古事記』のテクスト自体は問うていないという宣長の言を再評価することから、逆に『古事記』がオシホミミをアマテラス・スサノヲ双方の力を受け継ぐ存在として描いているものと受けとめ得ることを示し、それにより、両神の代表する秩序性と反秩序性を止揚する存在として、オシホミミと以下の皇統が位置づけられているという理解を得た。 この成果は論文として学術誌に投稿し、掲載が決定している(現在刊行準備中)。
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