本研究の中心課題は、戦後の日本人の認識を大きく規定してきた表象文化および大量消費型活字メディアの分析である。今年度は、1945年〜60年代のメディア(映画・演劇など)にみられる「朝鮮」の位相を調査・分析し、表象文化の史料的意義および社会的意義を明らかにすることに取り組んだ。 研究成果は、『未来』誌上で「<戦後>という劇場1〜5」という論題のもと、随時発表してきた。 「<戦後>という劇場1土方与志-ある爵位剥奪者の<戦後>」では、演出家土方与志および映画『女優』(1947年公開)を切り口に、戦後社会における演劇というメディアの役割について考察をおこなった。 「<戦後>という劇場2<せりふ>の響き水木洋子脚本『あれが港の灯だ』」では、「李承晩ライン」問題と在日朝鮮人の関係を描いた映画『あれが港の灯だ』(今井正監督1961年公開)の特徴を、脚本という側面から論じた。 「<戦後>という劇場3喜劇作家の<矜持>-飯沢匡の『ヤシと女』(1)」「<戦後>という劇場4喜劇作家の<矜持>-飯沢匡の『ヤシと女』(2)」では、「アナタハンの女王」事件(敗戦を知らずにアナタハン島で生活していた元日本兵と民間人女性が、1951年に帰還したことにまつわる一連の出来事)をモチーフにした飯沢匡の戯曲『ヤシと女』(1956年)を分析し、戦後社会における「朝鮮人女性」の位相をとらえた。 また、「<戦後>という劇場5『ヤシと女』と『グラマ島の誘惑』のあわいに」では、戯曲『ヤシと女』が、川島雄三監督により『グラマ島の誘惑』(1959年)というかたちで映画されたことに注目し、演劇と映画というメディアの差異および「朝鮮人女性」の位相の違いについて考察を加えた。
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