当該年度の前半は、前年度における研究範囲の拡大化(モダニズムのみならず17世紀前半まで遡って演劇と政治のダイナミズムを有機的にとらえるようというもの)を受け、エリザベス朝以来のイングランド・アイルランド演劇に関する文献・資料収集を重点とした基礎研究を行った。2005年夏に行われた、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる「火薬陰謀事件400周年」シリーズと称する、17世紀から現代までを網羅した一連の政治劇を上演しようという試みに関する調査のための連合王国への海外出張などが、こうした研究の一例に挙げられる。 以上のような基礎研究をふまえ、当該年度の後半は研究の成果発表に力を入れた。2005年10月29-30日に」岩手大学人文社会学部で開催された第60回東北英文学会では「「時代じゃない、人なんだよ、違うのは」-『シジェイナス』における同時代性と歴史性-」と題する研究発表を行い、タキトゥスの『年代記』に基づいたローマ劇が、古代史を扱いながら17世紀初頭の政治的動乱をいかに反映しているかについて、登場人物たちの<語り>に着目しながらその構造を明らかにした。この発表は同大会プロシーディングズに掲載予定である。その他にも、 W. B. イェイツがアイルランド独立運動家たちによる「イースター蜂起」(1916年)を題材とした作品二点を取り上げ、イェイツが作中で表現している演劇及び政治思想とは、シェイクスピアを代表とするイングランド・ルネサンス期の<世界劇場>と呼ばれる一種の魔術思想を20世紀に再生させる試みであったことを明らかにした論文が『試論』第43号に掲載予定であり、本年度は上記の計2本の論文が2006年3月に発表されることになっている。
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