昨年度は18世紀末の予約購読形式出版とそれを利用した女性詩人イアズリーとその読者層に関する研究を行なったが、本年度は対象とする時代を19世紀前半に移して、同様な出版形式で詩選集を出版した、スコットランド女性劇作家・詩人ジョアンナ・ベイリーとその読者層に関する研究を行なった。当初はフェリシア・ヘマンズの詩集を対象にする予定であったが、「同時代の海外も含めた文学嗜好の広範な伝播」という課題に効率的に考究するには、より多くの購買者を獲得していた方が適切と考え、ベイリーを対象とした。実際彼女の詩選集はアメリカ合衆国だけでなく植民地インドにも送付されていた。また本年度はこれまでの筆者の読者研究を総括する一時期と位置づけ、他の研究者に呼びかけて、成果を学会シンポジアムで総合的に問うことにした。4月から5月はベイリーの基礎的作品研究をし、5月中旬にはシンポジアムの打ち合わせをして課題を明確にし、6月から9月は支持・読者層の特定を一次資料で行なった。9月下旬には鳥取大学に於けるイギリス・ロマン派学会全国大会において「「読者」の生長とロマン主義時代の文学」の題で、司会・発題者としてシンポジアムを実施した。この内容は『イギリス・ロマン派研究』31号(2007年3月発行)に掲載された。なお発題者全員の原稿を大幅に加筆修正したものを来年度に書籍化する計画がある。10月から12月には研究成果と読者層データの整理を行なったが、同時にベイリーの読者層の研究を通して新たな課題も明らかになった。それはスコットランド文芸グループと出版者の文学への影響と、スコットランド啓蒙主義思想の関連である。この課題研究の有効性を、関連性のある先行研究や一次資料などを参照しながら、1月以降はその検証をした。なおこの新たな課題は、次年度の基盤研究(C)に引き継がれ、本年度の研究を通して筆者の読者研究は新たな局面に入った。
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