研究課題
フランスの現代作家パスカル・キニャールの作品、主にフィクション・批評作品をとおして、現代フランス文学が直面する「文学性」の再定義の問題に取り組んだ。キリスト教文化とヨーロッパ哲学の伝統によって立つ現代文学作品は、自己の脱構築作業(ジャンルの崩壊、越境性、不可能性へと向かうエクリチュールなど)の過程において、必然的に文学の「他者性」を生むことになり、その関係性において自己を再規定する必要に迫られるといえる。「他者性」のなかに「自己」の独創性を探る経緯は、多くの現代文学を特徴づけるものであるが、得にパスカル・キニャールの作品においてこの傾向は顕著である。キニャール作品は、文学理論、言語思想、芸術論、ジェンダー論を交差させることによって、独自の「文学空間」をつくりあげるものであるが、その根幹にあるのが、芸術の無からの創造の全否定である。文学作品は、常に「移動」され「書き換えられ」るものであり、常に「逸脱」することによって新たな空間へと自己を放出する。しかしこの「逸脱」は存在論的な意味をもつ前に、「言語の媒介性」によることを再確認しなければならない。エクリチュールの営みは、作家の意図的な操作が施されるまえ(en deca)に、「ことば」の密かな、沈黙の営みを想定しなければならない。キニャール作品は、この「ことば」の営みを「沈黙の声」として、虚構空間に現前させる。虚構空間である文学空間は、レトリックと「失われた声」との緊張としてあらわれるのだ。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (2件)
Pascal Quignard, figures d'un lettre
Actes du colloque Sexe et Texte au Xxe (publies par les Presses universitaires de l'Uninversite de Grenoble)