研究課題
平成16年度は、主にフランス現代作家パスカル・キニャールの作品研究を通して、現代フランス文学が直面する「文学性」の再定義の問題に取り組んだが、平成17年度は研究範囲をさらに広げ、マルグリット・デュラスとの比較において研究を試みた。両作家に通低する共通点は、言語が本来持つ機能性の境界を限界まで推し進めることによって、言語が露呈する「表現不可能性」や「ジェンダー」といった問題を提起することである。言語の中で試みられる「言語意識の生成」が、とりもなおさず作家独自の「虚構空間」・「小説空間」を作り上げていることを、具体的な作品をとおして分析した。キニャールとデュラスを結びつけるもうひとつの接点は「異品種交配」metissageである。両作家において、作品を生み出す源であるイマジネールにおける「多文化性」「多言語性」は、葛藤ではなく新たな芸術形態を生み出すうえで不可欠である。芸術創造は、したがって、「無からの創造」ではなく、「他者」との「差異」・「距離」によってなされるものであることを分析した。近年、クレオール文化などを通じて、フランス文学の中にジェンダー的な視点がもちこまれたが、いわゆるフランス国内の作家たちにおいても「他者性」を含んだ意識が見られることが証明できたとおもう。つまり文化的な差異は、単なるきっかけ、外的要因でしかないのだ。重要なのは「差異」の概念が言語を媒介として表現の可能性を得られるかどうか、ということである。研究成果の一部をフランスにおいて発表する機会が得られた。とくに、パリ第八大学教授ミレイユ・カール=グルバー氏の召喚により、2ヶ月間パリ第八大学にて大学院向けの講義を担当し、報告者の課題である「フランス文学における「他者性」に関して発表することができたのは、非常に大きな成果である。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (3件)
L'Eclats de voix, etudes reunies par P. Lecroart et F. Toudoire-Surlapierre Paris L'Improvi ste
ページ: 95-109
Cahier Marguerite Duras (coll. Lettres Modernes) No.1 Minard
ページ: 93-108
Figure d'un lettre, Actes du colloque international de Cerisy-la-Salle Paris Galilee