研究課題
初年度の研究では、1980年代以降のドイツ語圏移民文学について、その自伝的要素に注目した検証を行った。主に検証を行ったのは、アーラス・エーレン(Aras Oren)と、エツダマル(Emine Sevgi Ozdamar)による自伝的小説である。その際、ヨーロッパにおける自伝文学の規範との影響関係を検証するため、ドイツの文学研究、文化研究、とくにエスノグラフィー研究の視点から学際的に行われている「自伝」をめぐる議論についての文献を収集した。「自伝」というきわめてヨーロッパ的な文学の規範が、移民による文学テクストにもたらす影響についての検証を始めているが、その影響関係をより詳細に検証するためには、1970年代に多くかかれた「自伝文学」を始め、より多くの資料にあたる必要があることが明らかになった。一方、近年の移民によるテクストは、二世、三世の書き手たちによる新しい傾向を見せている。文学テクストを書く作家も音声メディア、映像メディアなどの媒体を用いていることがそのひとつの特徴である。2004年阪神ドイツ文学会において共同企画した「『文字』の文化、『声』の文化」と題したシンポジウムでは、これらの映像や音声による資料を用い、朗読パフォーマンスや作品の映像化を通して、トルコ系移民の若者たちのカルト的な人気を得た作家サイモグル(Feridun Zaimoglu)のテクストについて発表をおこなった。そこでは、サイモグルによる「移民文化」を脱構築しようとする戦略的な言説が、音声、映像メディアを媒体とすることによって、増幅化されて消費され、ふたたびステレオタイプ化されていく危険性について論じた。
すべて 2005 2004
すべて 雑誌論文 (4件) 図書 (1件)
Neue Beitrage Zur Germanistik Bd.3,H.1
ページ: 76-88
Neues Jahrhundert, neue Herausforderungen -Germanistik im Zeitalter der Globalisierung
ページ: 164-170
Beitrage zur Osterreichischen Literatur Jg.20
ページ: 1-26
日本独文学会研究叢書 24
ページ: 48-57