本研究は、作家Velma Wallisのテクストをアラスカ・ネイティヴ作家の系譜に位置づけ、アラスカ・ネイティヴ文学に共通する特徴と現代の傾向を明らかにしようとするものである。17年度は、16年度に行った聞き取りや、収集した資料の整理・分析・考察を行った。その結果を、2005年12月の多民族研究会(MESA)第5回全国大会で「アラスカの物語の今-アラスカ・ネイティヴのテクスト出版の背景」の題で発表した。 分析・考察は、これまでのアラスカ・ネイティヴ文学の出版と受容の状況と背景、昨今発表されるテクストの特徴、そして現在のネイティヴ社会の状況の3つの部分を明らかにしながら、それぞれの関連を明らかにするものとなった。 アラスカ・ネイティヴ作家のテクストは、各民族グループの言語、特有の生活習慣をもとに生まれるため、ジャンルや様式も実に多様である。ただし、その多様ななかでも共通する特徴として、サバイバルの物語伝統を継承している点が見られた。特に昨今、話題を呼ぶ作品には、父母や祖父母や先祖が厳しい自然環境の中でどのように生き抜いてきたかを語る物語が多い。それらのテクストが図らずも明らかにするのは、語られている生活が現在、喪失しつつある、または完全に喪失していることである。テクスト発表の背景には、失われる部族の言語と物語を残そうとする研究・教育機関の試みもあるが、生活様式が失われれば、そこに依拠する物語も失われていく。アラスカ・ネイティヴは本土のネイティヴとは異なり、land claimによって広大な土地の権利を獲得していながら、移動して土地を使用し、生活するという様式を放棄した。厳しいながら、貧しくはない生活を、意義を吟味せずに放棄することによって、物語の喪失、ひいては様々な社会問題の根底にあるアイデンティティーの喪失につながることを明らかにした。 なお、本研究結果は、18年刊行予定の『木と水と空と-エスニックの地平から』(仮題)(南雲堂フェニックス)に加えていただくことになった。
|