本年度は、キプリングのインド表象を考察するにあたり、博士論文の中では扱うことのできなかったキプリングの代表作である『ジャングル・ブック』の研究を行なった。一見すると児童文学のカテゴリーに入るこの作品から、イギリスの統治下にあるインド政府について言及されている箇所に注目し、物語のなかで、古くから伝わるインドの伝説的事象の中に、現実の植民地統治の表象がどのようにあらわれているのかを考察した。その成果は、論文"The Dance of the Elephants as Physiological Phenomenon : Kipling's "Toomai of the Elephants" as a Central Subject of The Jungle Books"となって結実した。 また、キプリングがインドでジャーナリストとして活躍していたことを踏まえ、インドにおける彼の執筆活動の筆跡を探るべく、インドへ赴いて資料収集を行なった。そして、キプリングの短編に多く扱われる、インドとイギリス双方に見られる軋礫を、特に、インド駐在のイギリス人に注目して考察し、これらアングロ・インディアンたちの緊張関係を、インド刑法などの法典化の動きなど、イギリスからインドヘのさまざまな流入を考察するべく、インドのみならず、国内での資料収集も行なった。
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