1.本年度はまず、18・19世紀フランス文学を噂や世論という観点から掘り下げた時に、どのような共通項が存在するのかを調査した。噂や世論についての考察、およびその表現の点で、特にバルザック作品とボーマルシェの戯曲を比較し、ボーマルシェの文学作品をもとに作曲された歌劇『セヴィリアの理髪師』も視野に入れて研究を進めた。18世紀、ボーマルシェの作品の中でその脅威が指摘されている噂の力は、ロッシーニの歌劇の見事な音楽的表現を得て、19世紀文学が噂・世論の力の増大を描く際に重要な典拠となっている。またそれは、小説の中に集団の言葉を組み入れる技法の革新を支えることとなった。この研究の成果は、学術論文「バルザック『老嬢』における<中傷の歌>」にまとめた。 2.ジョルジュ・サンドの作品、主に『コンシュエロ』『ルドルシュタット侯爵夫人』に描かれた、女性・芸術家の自立と世論の関係を調査した。ここには、芸術家の職業的自立のためにはそれを味方につけることが不可欠でありながら、個人の自我の探求を妨げる要素ともなる、噂・世論の矛盾した役割が暴かれている。この問題については、17年度、引き続き研究を進める予定である。また、ゾラの小説『パリの胃袋』『ナナ』等における噂を考察し、各生活圏における集団の言説の力、その表現について調査を遂行中である。 3.噂・世論について人間的モラルという側面から考察を行っている18世紀の文献、特にAntoine Houdar de La motteやHelvetiusらの著作を研究し、18世紀における精神的風土と噂・世論の関係について考察を進めた。この成果は、近く論文にまとめる予定である。
|