平成16年度の計画は、(1)第一次・第二次資料の収集、(2)第一次資料の整理と読解、であった。(1)については、第一次資料の対象とする作家の指定を行い、さらに作品(旅行記)を収集した。ヨーロッパ旅行記を著した数々の米国作家の中で研究分析に値すると思われたのはアーヴィング、エマソン、フラー、ホーソーン、メルヴィル、オムステッド、ストウである。このうち、もっともヨーロッパに長く滞在し、ヨーロッパに関する著作が最も多いばかりか、.欧・米の関係にもっとも思索を加えているアーヴィングがまず、中心的に研究するのに適していると判断した。アーヴィングについては、重要な作家であるにもかかわらず先行研究もまだ不十分であることも理由であった。アーヴィングのヨーロッパ史、ヨーロッパ滞在記とともに、比較のため、米国のニューヨーク史、西部旅行記を、主な分析対象として読解を進め、ノートしている。第二次資料については、19世紀当時の米国人によるヨーロッパのイメージ、旅行・旅行記一般を扱った研究書のほか、旅行(移動)についての理論書、ナショナリズムに関する理論書を収集した。 (2)に関しては、先に言及もしたが、アーヴィングのThe Sketch BookとLife of Christopher Columbusをまず対象とし、読解を進めている。米国についての作品では、History of New York、Astoria、Life on the Prairieを読み進めている。前者のヨーロッパに関するものでは、他者憧憬と、その他者像を再帰的に自国のアイデンティティーに組み込もうとするアーヴィングの試みに注目している。また、米国に関するものでは、自国が他者となっている現実、それを本来の他者であるヨーロッパの視点で把握しようとする試みに焦点を当てている。
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