平成17年度の計画は、(1)第1次資料の整理と読解、(2)第2次資料の選択的読解、である。(1)については、昨年度からの流れで、ワシントン・アーヴィングを対象にすることとし、彼の作品『サルマガンディ』『ニューヨーク史』『スケッチブック』『ヨーロッパ旅行記』『アルハンブラ物語』『グラナダ征服史』の読解を進め、ノートを作った。まだ途中段階であるが、仮説をいくつか立てている。1.アーヴィングはヨーロッパとアメリカの狭間に位置した作家であるが、その文学的伝統は本質的にヨーロッパに基づいている。特に18世紀の英文学の伝統に則っていると考えられる。初期のエッセイ、歴史、旅行記は、英文学を明らかに吸収したものである。アーヴィングの人間観は18世紀英国のモラル・フィロソフィ(シャフツベリ卿やフランシス・ハッチオンなど)に、倫理観はサミュエル・ジョンソンやジョウゼフ・アディソンに、風刺はジョナサン・スウィフトに、感傷性は墓畔派や歴史ロマンスに、起源を持つと考えられる。2.アーヴィングはエスニシティー意識が強い。征服された少数派、アメリカ先住民やニューヨークのオランダ系、さらにモーロ人などを対象にして共感を示している。3.英国文学に傾倒していながら、同時にそれへの異化作用が見られる。これは大変興味深いポスト植民地主義的特徴である。英国文学の過度な模倣は、時として破壊的なパロディになったり、バーレスクになったりする。文化的に英国の植民地だったといえる当時の米国で、英国文化と複雑に交渉している様子が伺える。(2)については、アーヴィングの古典的な研究を本年度は重点的に読んだ。特にHedgeの研究は秀逸であった。
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