本年度は、前年度にひきつづき、1920年代の北京文壇に関する資料の収集・整理に努め、一方でその成果を訳注「北京の文芸刊行物および作者」(下)(沈従文著、『湘西』第8号、2006年10月)において公表した。またこの他にも、沈従文関連の論文として、「網破れて山河あり--沈従文『長河』を読む--」を執筆し、『海域世界のネットワーク』(桂書房、2007年刊行予定)にて公表の予定である。 資料の収集・整理については、胡適『胡適日記全集』(聯経出版事業股分有限公司、2004年)や『焦菊隠全集』(文化芸術出版社、2005年)をはじめとする関連図書の収集を行った。1920年代北京の後発新聞たる『世界日報』(マイクロ・フィルム)をはじめとする新聞の副刊および各同人雑誌の調査を行った。また上海図書館に赴き、当時の北京の学生界において重要な雑誌であったものの、現在はあまり見ることのできない『燕大週刊』、『清華文芸』などを調査し、一部ではあるが、その目録の作成を行なった。 成果に関しては、前年度にひきつづき、当時文壇にデビューして一年あまりの投稿作家であった沈従文がものした評論「北京文芸刊物及作者」を翻訳し、詳細な訳注を施すことにより、従来あまり知られてこなかった北京文壇の一側面を明かにした。このことにより沈従文が自分と同じ立場である学生雑誌に対して高い評価をあたえており、それとともに執筆メンバーの後の活躍に鑑みれば、それらの学生雑誌が、当時の重要なメディアのひとつとして、中国現代文学史において大きな役割を果たしたものであることが明らかになった。さらに沈従文も、やはり散文詩を書いているものの、当時の散文詩とは一定の距離を保っていたこともわかった。
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