今年度は、研究課題の内、宗教と志怪の関係を探る部分を中心に進めた。 「民間祠廟記録の成」は後漢後半期から民間の祠廟が、国家を転覆しかねない勢力を持つに至り、官側からの関心が高まったために、それまでは記録されなかった民間祠廟の事件が文字化されるようになったことを説いた。この論考は後漢時代の話が主となっており、引き続き、魏晋南朝時代の祠廟記録が記録された背景について探っていく予定である。 「道仏宗教者の出生の不思議-あるいは神話と伝記」は、魏晋南北朝時代に勃興・隆盛した、道教、仏教の宗教者の伝記に次第に出生にまつわる不思議な現象の記録について検討した。このような出生の不思議は、本来、聖性を帯びた宗教の始祖や支配者についてのみしか語られなかったが、宗教者が神に代わって神聖視されることで、時代があとになるほど、不思議についての記録が増加していくことを指摘した。また、この種の話は本来は印度や聖域の仏僧についての話が起源であり、それが中国の僧侶にも影響し、更には道教徒にも取り入れられたという影響関係を証明した。 「志怪中所見天和神(志怪中に見える天と神)」は、特定の宗教によらない、中国的な天や神の根本的な概念を探るために、志怪に見られる、天や神の概念を検討した。中国人にとっての天は、思想書のみならず、民間信仰のレベルにおいても、姿を取らない抽象的な存在であり、それに対して、神は姿をもち、人間と直接会話をするような存在であることを論証した。
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