本年度は歴史意識に関する研究を中心に行った。 これまでも志怪書と五行志の関係についての研究をしてきたが、改めて『宋書』「五行志」に見られる志怪書との重複の問題について考えた。『宋書』「五行志」は梁の沈約が書いたもので、三国時代から劉宋時代までの災異を記録する。まず従来は干宝『捜神記』及び『晋紀』との重複を指摘されていた条に関して、これらは、干宝の著作から引用したのではなく、干宝が佐著作郎として晋王朝に残した災異の記録及び解釈を用いたものであることを論証した。実際『宋書』「五行志」には『幽明録』『異苑』などの志怪書との重複も見られるが、これらについても直接志怪書を参照したのではなく、五行志と志怪書が参照すべき共通の資料があって、別々に記したものであると論じた。そのために、『宋書』「五行志」に記される人痾等の災異の記録は、三国、晋時代のものが詳しく、志怪書との重複が多く見られるのに対し、劉宋時代のものは非常に簡略化され志怪書との重複も見られない。これは王朝のその時その時の怪異情報の収集方針の違いを反映しているのではないかと問題提起を行った。この王朝の怪異情報の収集と志怪書の歴史の関係については、非常に興味深い問題であり、新たな視点から魏晋南北朝志怪史を記述できるのではないかと思う。来年度以降の研究課題としたい。 また論文として正式な発表はしていないが、隋代の『五行記』及び、唐代の『広古今五行記』という書物についても調査を行い、五行志と志怪書の関係の終焉について考えた。
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