本年度は、嘉靖年間以前の「八股文」作家の一覧とその作品目録(稿)を作成するのが第一の目標であった。これについては、海外の所蔵機関が蔵する資料についてまだ調査が不十分ではあるものの、国内の機関が蔵する資料については一部を除きおおむね計画通りに進んだ。これによって、来年度に出版予定の「明代八股文研究資料目録(仮称)」作成のための基礎作業がかなり進展し、方向性がほぼ固まりつつある。そして、それらと並行するかたちで、明代における「八股文」成立の問題について考察を進め、成化年間における王〓の「経義」の出現を「八股文」程式化の一つの契機とみなす従来の説を、関連史料や実際の作品の分析に基づいて検証した。その成果は論文にまとめた上で、現在雑誌に投稿中である。 その他、本年度の研究成果の一部として発表した論文が二篇。一つは、建文年間の「八股文」資料を調査した際の副産物であり、建文元年の応天府郷試において方孝孺が関与した「経義」の出題とその「程文」の問題に関する研究(「以て六尺の孤を託すべし-建文元年京〓と方孝孺-」)である。これは、「八股文」が程式化される以前の明初の時期の「経義」の文章について認識を深めることにつながった。また、もう一つは、明末の「八股文」について基礎的な作業を行った際の副産物であり、明代の科挙制度における不正の問題に関する研究(「断〓絶六-字を識らなかった会元-」)である。これは、「人股文」が科挙試験の文体として定着して以降、明代の科挙制度がどのような弊害を顕在化させていったかという点についての理解を深めることにつながった。 さらに、以上の研究に加えて、本年度の研究活動においては、当初の計画を若干変更して、漢籍所蔵機関における文献調査の比重を増やすこととなった。すなわち、平成17年6月には北京図書館、南京図書館、上海図書館、同8月には南京図書館、浙江図書館、上海図書館、同10月には尊経閣文庫、東京大学東洋文化研究所、同11月と18年3月には台湾中央研究院、台湾国家図書館等において、「八股文」の撰集や「会試録」「郷試録」を対象とする文献調査、並びに関連資料や研究論文の複写を行った。
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