本年度も昨年度に引き続き、ロシア所蔵西夏語文献の調査、マイクロフィッシュで得たデータの分析と入力作業を行い、研究成果の一部を論文として発表した。 チベット語文献から訳された西夏語仏典が、本研究のテキストデータの基礎となる。ロシア科学アカデミー東方学研究所サンクト・ペテルブルグ支所において西夏語資料の閲覧・調査を行った。本研究の中心対象は、西夏語釈『聖勝慧彼岸到集頌』上・中・下巻であるが、同種の資料であり、分量の少ない西夏語訳『大千国守護吉祥頌』に関して、既存の西夏文字フォントを利用し、全文をテキストデータとして入力した。この文献についてはテキストを提示し、訳注・研究を発表した。これは本研究の集成となる、西夏語訳『聖勝慧彼岸到集頌』のテキスト・訳注・研究のプレ・ワークとなる。 本研究の課題の一つは、チベット語がどのように西夏語に翻訳されるかを考察することにあり、その目的のための、酉夏語-チベット語逐語訳・対照資料の作成作業は現在進行中である。 本年度は、数年来の課題となっていたロシア人研究者との共編著、『西夏語辞典:西夏語-ロシア語-英語-中国語対照辞典』(露文)の公刊に至った。本辞典の項目にも、チベット語・西夏語の対応から判明した知見が盛り込まれている。 また本年度は、別の西夏語文献を用いて、西夏仏教についての論文を執筆した。西夏語仏教文献『般若心経註』のテキスト・訳注・研究・マイクロである。当該の文献は、チベット語からではなく漢語からの西夏語訳であるが、これまで研究のなかった文献であり、また内容的に西夏仏教学に益するものと言える。
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