本研究は現代中国語の移動動詞の用法分析を中心に据えた中国語における「空間表現」について、より包括的かつ合理的な解釈を目指したものであり、その成果は以下の論文としてまとめた。いわゆる方向動詞に言及した記述において、とりわけ離脱義を表す"開"をその中に加えているか否かという点で、研究者によって異同がみられる。そしてこれが複合方向補語として用いられた"V開来/V開去"(Vは動詞)に関する先行研究は他の方向補語の場合と比べると圧倒的に少ない。中国語のいわゆる方向補語は(とりわけ派生義にみられるように)意味的に結果補語の下位分類だとみなすことができるものの、両者を別個に区分した場合、明確な方向性を有さない"-開"からはむしろ結果補語寄りの性格を強く見出せるようにも思われる。論文『方向補語"開/開来/開去"について』(査読付き。掲載誌名は11の欄参照)では補語として用いられた"開/開来/開去"の各種用法について考察するとともに、主に"-開"の有する離脱義という概念から、三者のもつこうした両補語に関わる性格の解明を試みた。 考察の結果、非移動的な"V開来"に対し、"V開去"は持続的な移動を表すことができ、これが両フレーズにおける結果義・方向義の差異に結び付くことになるものの、両者はインフォーマントが積極的に用いる用法ではないことに加え、本論文中で挙げた用例についても、通常は"V開"で一括して担うことが可能であるが故に、結果義と方向義が混在することとなっていることを明らかにした。
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