研究概要 |
中国西南部に分布する少数民族諸言語について,動詞述部に直示的範疇が表示される現象を主たるテーマとして,現地調査を中心とした資料収集・整理を行い,記述・分析を進めた。 現地調査は7月29日から9月3日,中国四川省においておこなった。主として甘孜チベット族自治州道孚県において,ダパ語メト方言の文法調査,ダパ語イウ方言の語彙調査,チベット語木茄牧民方言の文法調査を行い,音声資料を収集した。また,実際にダパ語が話される村を訪問し,社会言語学的状況を観察した。現地調査で得た音声資料はCD-Rに収録し,他の研究者にも提供可能な形にした。 ダパ語メト方言の助動詞の機能について分析を進める中で,この現象がいくつかのチベット=ビルマ系言語や南米のバルバコア小語族に見られる,動詞述部の直示的範疇の表示と共通すること,また,それが認識のモダリティの一種であることを明らかにした。この研究を進める段階で,京都大学言語学懇話会第65回例会(2004年7月10日,京都)において「ダパ語(川西走廊諸語)の助動詞について」と題した学術講演(『京都大学言語学研究』23:217に要旨掲載),The 38th International Conference on Sino-Tibetan Languages and Linguistics(2004年10月1〜3日,ルンド)において"Non-agreement analysis of the two series of auxilialy verbs in nDrapa(Zhaba)"という研究発表,3科研合同研究会-ユーラシアの文献と言語-(2005年3月21日,京都)において「ダパ語におけるconjunc/disjunctシステムについて」という研究報告を行った。現在,これらの成果を,世界の諸言語に見られる同様の現象に関する考察およびダパ語の文法概説とともにまとめた論文を執筆中である。 これらの少数民族言語に多大な影響を与えたチベット語についても,文献資料を用いた研究を行い,論文「ロシア所蔵チベット語袖珍本について(1)」(『京都大学言語学研究』23:167-190)を発表した。
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