研究概要 |
中国四川省西部のチベット文化圏において話される無文字の少数民族言語について,現地調査を中心とした資料収集をおこない,記述言語学的研究を進めた。さらに,述部に発話者の視点の有無が表示される,「接合/離接パターン」という現象について,類似の現象を持つ世界の諸言語と対照研究をおこなった。 現地調査は,2005年8月21日から9月22日,中国四川省甘孜チベット族自治州においておこなった。主たる研究対象であるダパ語メト方言については,文法調査のほか,民話や自然発話の音声資料を収集した。このほか,周辺で話されるダパ語モッゾ方言やスタウ語鮮水鎮方言についても語彙調査をおこなった。 現地調査で得た一次資料をもとに,ダパ語メト方言に関する記述言語学的立場からの研究を進めた。その成果は,論文「ダパ語メト方言における音素体系と子音連続の相関」(『東ユーラシア言語研究第1集』好文出版2006)のほか,研究発表「ダパ語メト方言における子音連続の分析」(中国東アジア諸語研究会第9回例会,東京:青山学院大学,2005年10月23日),「ダパ語の視点表現について-未完了離接標識を中心に-」(チベット=ビルマ言語学研究会第7回会合,京都,2005年11月27日),‘Existential verbs in nDrapa (Zhaba)'(The 11th Himalayan Languages Symposium, Bangkok : Chulalongkorn University,2005年12月6〜9日)などにおいて発表した。 さらに,昨年度より中心的研究テーマとしてきた接合/離接パターンについて,ダパ語メト方言における現象の記述と分析,現代チベット語やアワ・ピット語との対照研究などを進め,博士論文「ダパ語における視点表示システムの研究」にまとめた。 このほか,東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の記述言語学研究会,Himlayan Languages Syposiumなど,内外の学会・研究会に出席し,研究討議をおこなった。その一端を,「学界・研究動向第37回国際シナ=チベット言語学会」において報告した。現在,これらの成果をもとに,文法概説および存在動詞に関する論文を準備中である。
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