研究概要 |
平成16年度より、複数の動詞カテゴリーと項の備える意味論的性質の関係を体系的に示すことを目的として本研究を進めてきた。本年度は特定の動詞構造の他動性・自動性に焦点を当て、特に再帰代名詞を用いた構造を詳しく取り扱った。再帰代名詞を用いた構造は意味論的にいくつかに分類することができ、『反使役動詞構造』(sich offnen開く,sich verandern変化する、など)や中間態(sich gut lesen読み易い)などがある。その中でも心理を表現する構造のうち、他動詞から再帰代名詞を伴って派生する『再帰型心理動詞構造』(sich aufregen興奮する,sich argern立腹する、など)に着目し、他の構造と対照してその意味論的特性と、再帰代名詞を伴う構造全体の中で占める位置を明らかにした。 その結果、再帰型心理動詞構造と反使役動詞構造は一つのカテゴリーに含まれる二つの下位範疇として捉えられるという結論に至った。両者の共通点は、(1)派生の際に用いられる再帰代名詞は動詞の項としてのステータスを持たないこと、(2)この派生はいづれも自動詞化のプロセスとして捉えられること、の二点である。相違点は、派生する際に叙述の対象となる出来事の『概念化のパターン』を変化させるかどうかにある。反使役動詞構造は、出来事の引き起こし手にあたる項の『主体性』が低い場合に限って、この項を基本他動詞の語彙的意味構造(Lexikalische semantische Struktur)から単に削除することによって実現される構造である。つまり、構造の派生が項の意味論的性質に依存している。これに対して、再帰型心理動詞構造の派生では、項の削除が行われず、出来事の出発点をSTIMULUS(心理を引き起こすもの)からEXPERIENCER(心理の所有者)に移して出来事の概念化のパターンを変化させるプロセスであることが判明した。
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