中古語における文の機能、テンス・モダリティのような文法範疇同士の関係性を解明していくためには、文の述べ方の体系を明らかにする必要があると考えられる。そこで本研究では、中古語の文を対象にして、文そのもののもつ機能という視点から捉えることによって、中古語における述べ方の体系の基本的なすがたを明らかにすることを目的としている。 そのために、本年度は中古文学作品(散文)を資料として、古典作品本文の電子化されたデータを利用して、対象となる例文を収集して、述べ方の分類のための基準を確定し、その上で、中古語の叙法体系の基本的な枠組みを明らかにすることに力点を置いて分析をすすめることにした。その結果は以下の通りである。 1.上述の関連性を明らかにするための、述べ方の体系的記述についての視点をえた。従来はモダリティ形式の分類が述べ方の記述につながると考えられていたが、このとらえかたは問題があるという帰結を得た。 2.それに代わる視点として、叙法論的記述というものがあり得る。しかし、これもこれまでに見られた叙法論的な分析のように、蓋然性をあらわす形式を分類するだけでは、やはり不十分であるという帰結を得た。 3.述べ方を体系的に記述するということは、結局、文そのものがもつ機能としての表現意図を分類したうえで、その表現意図の実現のあり方を記述するということになり、そのようなあり方を「叙法」と呼ぶべきであると考えた。 4.この視点から推量「らむ」という形式に焦点を当て、述べ方の分析をおこなった.
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