国立国会図書館蔵亀田文庫、金沢市立図書館、京都府立総合資料館、及び国文学研究資料館蔵のマイクロフィルム等に収蔵される近世前期字書諸本を調査し、可能なものについてはマイクロフィルムやデジタル画像として収集した。16年度に収集した同様のデータと比較検討することによって次のような点が明らかになった。 (1)17世紀後半の画引の字書には大きく画引倭玉篇系統と字彙系統が存することがわかっていたが、前者の系統の画数算定法は、和訓注を主とする倭玉篇類にのみ採用され、字彙類はもちろん、漢文注を主とする漢玉篇類にも採用されていない。 (2)画引倭玉篇系統の算定法を採る字書類は画引倭玉篇以外にはそれほど多くは見られず、草書で記される「篇冠づくし」の類にその影響の跡を見ることができる程度である。ただし、元禄期に節用集と合刻される字書が画引倭玉篇であることは注目される。一方、和訓注を主とはするものの、四書字引や韻会捷見(古今韻会の索引本)等は基本的には字彙系統の画数算定法を採っている。これは、漢文読解や漢詩作成時の参考辞書は、字彙の系列下に位置づけられていることを示す。 (3)元禄期に刊行の文書作法書(書札重宝記)中の文書例に見られる和訓について、画引倭玉篇と和字彙における掲載率を調査したところ、前者が後者を上回る結果となった。これは成立の古い倭玉篇が日本語に馴化していることと関係があると見られる。 (4)上記(1)〜(3)より、17世紀後半の字書界は、節用集や日常文書の世界に近い画引倭玉篇系統と、漢文読解や漢詩作成の世界に近い字彙系統とに二分されていたものと推測される。 (5)18世紀前半に刊行された字書類については18年度の調査に俟つところが多いが、字彙系統の優勢が鮮明となっていくと見られる。 上記(1)〜(4)の内容については、第207回筑紫国語学談話会において口頭発表を行った他、18年度中に雑誌論文として公表する予定である。
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