本年度は、日本文字研究史の全体像把握の第一段階として、近世の文字研究書に関して、東京大学附属図書館所蔵資料を中心に、国文学研究資料館・大阪府立中之島図書館等に於いて調査を行った。本年度の調査資料が研究対象とするものの範囲は、主として仮名の起源及び字母に関するものと漢字字体に関するものとである。その成果は「文字研究の歴史」(『朝倉日本語講座2 文字・書記』朝倉書店・2005年3月刊行予定)に概略的に公にすることを得た。それと同時に、今後、仮名遺書など、より調査範囲を広げることにより、更に巨視的な観点から日本文字研究史を捉え直すことが目標として定まったところであり、また、調査の過程で、所謂狭義の文字研究書のみならず、随筆等の中に見える文字に関する言説を集成することによってより広汎な文字意識史を記述する必要性が認識されるに至り、現在その収集・整理にも着手したところである。 また、文字研究史の概略的記述の副産物的成果として、以下のものを得た。一には、個別資料の問題だが、これまでの文字研究史記述に於いて特に重要資料とされてきた『倭片仮字反切義解』の成立に関わる問題点が明らかとなったことであり、これは「『倭片仮字反切義解』の成立年代について」(『神戸大学文学部紀要』第32号、2005年3月刊行予定)に於いて論じることを得た。二には、文字研究史の反省的な捉え直しから文字研究の方法論について理論的に考究する足掛かりを得たことであり、「仮名書記史研究の方法論について」(『文化學年報』神戸大学大学院文化学研究科、第24号、2005年3月刊行予定)及び「定家の表記再考」(第5回表記研究会口頭発表、2005年1月)に於いてその点を明らかにした。
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