本年度は、前年度の研究の中で提案したCによる主語の格と一致の認可のメカニズムに基づいて、中英語と近代英語に見られる主格主語や目的格主語を持つ不定詞節を中心に研究を行った。まず、先行研究について検討し、それらが当該の不定詞節の出現と消失に関して十分な説明を与えることができず、不定詞節の構造変化に関する詳細な分析が必要であることを論じた。不足詞節の構造変化、特に不定詞標識toの範疇と素性の変化については、これまで詳しく研究してきたので、その研究成果を活用して次のような分析を試みた。まず、不定詞標識toが前置詞から機能範疇Tへと変化する過程において、目的格を認可する前置詞としての性質を保持しながら機能範疇として主語をとるようになった結果、初期中英語期に目的格主語を持つ不定詞節が出現した。一方、主格主語を持つ不定詞節は完全に機能範疇化したtoを伴うが、そこではwh移動や話題化などのCPの存在を示唆する特性が見られるので、Cによる主格の認可の可能性を主張した。具体的には、主格主語を持つ不定詞節は完全なTを欠いているが、定形節と同じ発話の力を持つので、その主要部である定形のCが主格の認可に関与している。このように、主格主語を持つ不定詞節は、定形のCが不完全な非定形のTPと併合されるという特殊な構造を持つので、主に後期中英語から初期折代英語までの短い期間にのみ観察されたという事実が説明される。以上の分析が正しければ、特に主格主語を持つ不定詞節はCによる主格の認可の直接的な証拠となり、前年度の研究の中で暫定的に提案したCによる主語の格と一致の認可のメカニズムの妥当性を高める結果となった。
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