研究概要 |
本年度は、前年度に行った英語史における不定詞節の語彙的主語の認可に関する研究を踏まえ、Cによる主語の格と一致の認可に関する研究のまとめを中心に行った。基本的には、これまで考えてきた仮説を維持することになり、CとTの両方が揃ってはじめて主格が認可されるという結論に至った。CはあるがTはない構造の事例としてある種の空所化があり、そこでは主語として主格ではなく対格名詞句が現れる。一方、TはあるがCはない構造の事例として、英語の主語省略現象とバルカン語の仮定法節があり、そこでは通常主格主語は許されないが、一旦Cが導入されると主格主語が義務的となる。以上の経験的事実から、主語の格と一致の認可にはTだけでなくCも関与しており、具体的にはファイ素性を持つCとの一致によって主格が認可されると結論付けた。Chomsky(2005,2006)においても、CからTへのファイ素性の継承を仮定しており、やはりCがなければ主格が認可されないと主張されている。2つの提案は経験的事実に関する予測はほぼ同じであるが、ChomskyではTへの素性継承によりCにはファイ素性は残っていないはずなので、ゲルマン語の定形節やケルト語の不定詞節に見られる、いわゆる補文標識一致現象が説明されない。 前年度の中心的テーマであり、上記の仮説を支持する有力な証拠であった、英語史における不定詞節の語彙的主語の分布に関する研究からは、不定詞形態素と不定詞標識toの変化を含めた不定詞節の構造に関する包括的研究に発展しており、その成果の一部がThe Journal of Comparative Germanic Linguisticsに掲載される予定である。
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