今年度の研究においては、新聞記事や辞書記述・評論などの実際の文章における「存在・所有を表す漢語合成語」を観察し、そこから一般化され得る特徴・記述を見い出すことを試みた。 (1)まず、「在(る)」に関しては、もちろん、「在*」タイプと「*在」タイプがあるが、前者は圧倒的に、存在する主体としては[+animate]のものをとり、後者では中立化されていると考えられる。これは、いわゆる「イル」「アル」の使い分けからすると理屈に合わない(事実、外国人学習者にはこの点理解が難しい)。 (2)次に、「有(る)」について。「有*」タイプは、[-animate]のものが多数である。また、興味深いことに、「*有」に関しても、その存在主体は[-animate]になっている。 (3)「居(る)」について。「居*」タイプは、[+animate]のものばかりであった。また、「*居」でも、[+animate]のものがほとんどであった。 以上が観察の概略であるが、そこから、以下のような記述を行った。 (2)から、「有(る)」は専ら「所有」を含意すると言え、ゆえに、存在主体は[-animate]となる。日本語のアルには存在・所有の意があるが、漢語では所有は「有」の専売特許である。 (3)の観察結果から、「居(る)」は、いわゆる有情のイルの漢語版であると考えられる。ここまでで、「居」=イル、「有」=「所有」のアル、ということになる。(1)が一番状況が複雑である。 (1)から、「在(る)」については、「在」の位置が関係しており、「在」=「存在」のアルであるということは確かであり、ヤコブソンや城田(1986)で言われるように"有情でることを特に示さない"ことを含意する。このことは、「*在」=中立化という事実からも傍証され得る。「在*」で、[+animate]が多数を占めるという事実については、アルが有情を第一義的に示す、という稀なケースであると言える。これについては、「在*」における「*」の漢字が、[+animate]とフィットする抽象的な「場所」を含意していると捉えることで説明が可能となる。
|