今年度の研究では、昨年度までの実例から導かれた記述的一般化を基に、それらを理論的な観点から考察することを試みた。具体的に言えば、漢語合成語において語基と見なせる「在」「居」「有」と動詞「ある」「いる」がどの程度まで連関するものなのかを考察するとともに、中でも「在」を含む漢語合成語の構成について語彙意味論の観点から分析した。枠組みとしては、特質構造(Qualia Structure)という語彙的意味表示の方法を用いた。考察の結果としては、大まかに以下の2点に集約される結論を導いた。 I:「在」を含む漢語合成語は、[+animate]の存在主体にも[-animate]の存在主体にも言及可能であるが、これは「在」自体が定めるものではない。 II:「在」を含む漢語合成語における存在主体のanimacyおよびその他の意味特徴を決定するのは、結合される漢字のもつ特質構造における語彙的意味情報である。 このような分析結果を得た利点としては、まず、昨年度における研究でも言及したロマン・ヤコブソンらの指摘を理論的(語彙意味論的)にサポートできることが挙げられる。また、Qualia Structureを採り入れた上記IIの帰結では、存在主体のanimacyのみならず[+human]か[-human]かなどの情報も規定可能となる。
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