一つの文書群のなかに、複数の異なる伝来過程を持つ文書が混在している場合、それらを見分けるいくつかの方法が考えられるが、その一つに形態の相違から判断する方法がある。本研究は、正倉院文書を主たる材料としてそれを試みるものである。正倉院文書の大半は写経所で使用された文書だが、それとは作成の経緯が異なる文書も含まれており、そのなかには形態の相違によって識別できる文書があると想定している。 平成16年度は主として釈文をたよりに、正倉院文書のなかから写経所以外で作成されたと推定される文書を抽出する作業をおこなったが、平成17年度はそれを継続するとともに、マイクロフィルムに基づく所見を加え、新たな視点からの抽出作業に取り組んだ。まだその作業は端緒に付いたばかりであるが、今後も継続していく予定で、その準備として年度後半にマイクロフィルムのデジタル化をおこなった。なお、文書検索の作業過程で、写経所外文書の代表ともいえる正税帳を通覧した結果、文書に引かれた界線と、墨書との関係に一定の法則を見出すことができ、研究成果としてまとめることができた。このような副産物も想定されるため、研究費による研究期間終了後も、ひきつづきこのテーマに沿った研究を継続していきたい。 正倉院文書以外の文書群では、談山神社文書、額安寺文書、西大寺文書等の調査をおこない、既存の釈文に訂正箇所を発見するなどの成果を得た。博物館の平常展示にはすでにその成果を反映させているが、活字としても順次、公表していく予定である。
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