今年度は、関係する史料調査と現地調査を開始した。史料調査については、南京の第二歴史档案館、台北の国史館、上海の上海図書館において、南京政府の経済建設についての、基本史料を収集することができた。 関連する現地調査としては、民国時期に綿業を中心に独特な企業複合体を形成した南通、また内陸開発として重視された甘粛・青海を訪問し、初歩的な調査から、可能ならば、聞き取り調査、現地文献の収集に努めた。 南京政府は、一方で国際的な環境を利用しながら、競争力のある工業化と農村発展に努めたが、他方では、孫文の経済建設プランを念頭に置きながら、国家の強力な主導のもとで経済開発を推進していた。その政権の性格としては、テクノクラート国家として理解する可能性がある。 これが、地域社会にどのような緊張をもたらしたのかということが問題となる。特に、内陸地域では、複雑なエスニシティ状況という前提条件があり、また開発が環境に与える負荷という問題も現実的な制約となっていた。むろん、この困難さについては、中央政府や国民党のなかでも、一定の認識が共有されており、だからこそ当時、現状の調査・研究が特段に重視されたのである。 これらは、今回収集した史料において、明確に証することができる。特に、政府と党の外側に専門家集団による政策提言機能を作動させるという手法が南京政府に顕著なものである。しかし、地方党部の動きは、多分に地元への利益誘導の傾向もあり、これと中央との政治力学について留意する必要を確認することができた。
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