本研究の第1年度である本年度は、本研究課題が10月に採用されてからの半年間の研究活動であるが、第一の研究課題である北魏史像の再構成に向けて、資料収集の予備的調査と『魏書』についての研究をおこなった。まず調査に先立ち10月22日かち5日間、上海の華東師範大学歴史系主催の国際学術会議に参加し、山東大学の張金龍教授や中国社会科学院歴史研究所の侯旭東博士らとの交流をおこない助言を得た。ついで12月21日から6日間、北京の国家図書館善本閲覧室、北京大学図書館古籍善本閲覧室等で石刻資料の調査をおこなった。本年度はまた大学生・大学院生の協力を得て石刻資料の整理作業を開始した。 研究においては現在3編の論考を投稿中である。うち1編は北魏以来の国史編纂の歴史の上に『魏書』を位置づけたもので、今後の『魏書』の史料批判の方向性を定めるものである。特に重要な点は、『魏書』は道武帝が中国的制度を導入した皇始年間を起点とする歴史書であるが、北魏には皇始以前と以後を分ける国史は存在せず、孝文帝の漢化政策に伴い皇始を起点とする歴史観が現れるものの、そのような歴史観で正史が作られたのは北斉初めに作られた『魏書』が最初であったということである。またそこでは従来よりも道武帝と華北を統一した太武帝が高く評価されたこと、その根底には孝文帝の漢化政策を全面的に肯定し、その歴史的評価を高めることがあったことを明らかにした。また『魏書』編纂の経緯からその政治的背景についても検討した。こうした『魏書』の歴史観は今日の我々の北魏史観に大きな影響をあたえているが、『魏書』が北魏史を中華王朝としての発展史の側面で切り取ったのに対して、北魏にはまた別の国史像があったのであり、次年度は石刻資料等を用いながらこうした北魏の国史像の復元に取り組んでいく予定である。
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