[文献研究]『続漢書』輿服志にみえる後漢時代の車駕・冠服に関する記載について詳細に検討し、「漢代車制考」「漢代服制考」の論文2篇を誌上に公表した。両篇は、これまでの考古史料研究の成果を一部取り入れているだけでなく、『続漢書』以外の文献史料の検討結果もふまえており、本研究の集大成にふさわしい内容となった。これまで本研究では、漢代の官僚機構における2つの位階序列(「公-卿-大夫-士」序列・官秩序列)の相互関係を主たる考察対象としてきたが、本年度の作業によって、(1)2つの位階序列を統合する役割を担っていたのが印・綬であったこと、(2)位階序列よりも着用される場面や着用者の職掌の影響をより強く受けるものとして冠の制度があったこと、(3)後漢時代、各種の冠の存在は戦国諸国の多様な制度を承けた結果として理解されており、それは戦国諸国の多元的な秩序の統合者として漢朝を語ろうとする「神話」の反映であること、(4)印・綬の象徴的機能によってなされる官僚機構の分割と再統合は、冠が示す「多元性統合の神話」と通底すること、が明らかになった。漢代における2つの位階序列の並存という現象は、漢朝を地域性の超克者たらしめるための一種の装置であったとみなすことができる。これが、本研究の到達した結論である。 [考古史料研究]2006年11月に奈良市の寧楽美術館において調査を行い、漢魏晋期の亀鈕印数点に実際に触れて、漢印の形態的特徴への知見を深めた。同月、中国浙江省杭州市を訪れ、中国印学博物館において戦国・秦漢時代の古印を実見するとともに、浙江省博物館において秦漢時代の遺物を閲覧した。 [データベース関連]漢代車服制度に関する和文文献リスト作成作業を、対象を漢代史一般にまで拡充しつつ実施し、『漢代史文献目録(1985-2000)』を得た。
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