平成17年度におこなった研究は次の通りである。まず前年度に着手した証書原本ファクシミリ(あるいは画像データ)の収集作業、スキャニングによるコンピュータへの取り込み作業を継続し、これと平行して、各原本の証書学的・書冊学的特徴をデータベース化する作業を継続した。最終年度である次年度での作業を通じて、研究テーマに必要なデータの収集は完了する見込みである。また、これまでの研究の中間報告として、皇妃テオファヌ(皇帝オットー2世の妃)婚姻証書の証書図像学的分析の成果を論文にまとめ、公刊した。夏期には、年初に立てた計画に従い、現地へ渡航し、昨年度の研究旅行でまわることのできなかった旧帝国イタリアの主要都市(ミラノ、ローマ、ラヴェンナ等)の国立文書館、ならびにスイスのクーア司教座文書館およびザンクト=ガレン修道院付属文書館、ドイツ・ミュンヒェンの州立文書館を訪問し、収蔵されているオットー朝時代の皇帝証書の原本を実見するとともに、マイクロフィルム化ないしデジタルカメラでの撮影という手段で、その画像データの収集をおこなった。さらに、証書発給地を結ぶことで浮かび上がる、オットー朝皇帝のイタリア(アルプス越え)巡幸ルートを、当時の「旅程」史料をもとに実地で検証した。秋には、ヨーロッパにおける古書体学ならびに固有名詞学の研究の歴史と課題をまとめた論考を、共著(『西洋中世学入門』東京大学出版会)という形で上梓した。
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